脂肪吸引|医学1

● 脂肪吸引とは何か?

脂肪吸引とは 脂肪吸引とは、陰圧をかけて皮下脂肪を細い吸引管で吸引する手術です。脂肪というのは元々、水に浮いてしまう位軽いものであるため、体重自体は余り変わらないですが、部分的に細くすること、ボディラインを整えるという面では効果的です。 しかし幾らでもサイズダウンは出来ず、例えば太腿ですと骨・筋肉・皮膚の厚みは変わらないままですし、脂肪層の脂肪自体が幾らでも吸引出来るものでなく、皮膚の裏や筋肉の上に付いている脂肪や脂肪層内の線維性結合組織に付いている脂肪はなかなか吸い出せないため劇的に細くはならないものです。 上の画像ではビンに約4.4リットルの燈色の物が浮んでいますが、これが脂肪+Tumescent液+血液です。Tumescent液でかなり、ふやかして吸引するため、脂肪そのものは3リットル未満でしょう。ですから術後の細さはそれなりレベル迄です。ただこれでも出来るだけ頑張ってやった結果です。なおビンの中で分離して下に溜まっているのは脂肪は殆ど含まないTumescent液+血液です。色の上では真っ赤に見えますが、コップの水に赤インクを3滴入れれば真っ赤に見える様なもので、この下の部分の血液含有量の学会報告もありますが、通常5%以下です。私も三菱化学で検査を何回か依頼しましたが同様でした。

● リバウンドや術後のケアについて

脂肪吸引の術前(脚にデザイン+尿管)

 脂肪吸引がダイエットと大きく違うのは、リバウンドがほとんどないということです。通常、脂肪細胞が大きくなったり小さくなったりすることで太ったり、痩せたりはしますが、脂肪細胞は成長期でその数が決まってしまうと言われています(近年は異論も出ていますが)。脂肪吸引の場合、脂肪細胞自体を取り除いてしまうため、残っている脂肪細胞がたとえ大きくなったとしても、脂肪細胞の絶対数が減少しているためリバウンドするという程のことはありません。 術後は腫れむくみが生じてしまうため、圧迫が大事になってきます。圧迫することにより腫れを最小限に抑え早くひかせる、弛まないようにさせる等々メリットが多く、1〜3ヶ月はしっかり圧迫をすることが美しく仕上げるポイントとなります。  また超音波やエンダモロジーを施行すると術後の経過を早め、皮膚のしなやかさを回復させます。
 なお手術は範囲が限られていれば局所麻酔、範囲が広ければ硬膜外麻酔+局所麻酔が一般的です。硬膜外麻酔は脊椎麻酔と異なり効かせたい部位にのみ効かせられる優れた麻酔方法ですが、血圧・脈拍の変動を伴う事もあり、万一の際は全身麻酔に移行するかも知れないのを念頭に置いて行なう本格的な麻酔です。気楽な麻酔ではありません。そのため尿管は必須です。尿量で点滴の測度を調整したりします。

● 吸引した量以上に効果が出るのか

脂肪吸引と拘縮(皮膚の拘縮もあり一回り小顔を実現:術後3ヶ月)

 脂肪というのは細胞膜に脂肪滴が溜まっているような構造ですから、脂肪細胞そのものが吸い出せなくても、細胞膜が破れ脂肪滴が出れば脂肪細胞は小さくなります。こうやって小さくなった脂肪同士が連なって全体しても脂肪層が薄くなっていくのを「拘縮」と言います。
  ただ傷ついて脂肪滴が出た細胞も放置ではそれなりに回復してしまいますから、術後は毎日一定時間以上の圧迫が効果的で右のモニターの人のように術後1週間迄は1日中、それ以降から3ヶ月までは就寝時のみ圧迫を続けましたところ、一回り小顔の綺麗な輪郭となりました。
 また、この拘縮ですが、脂肪だけでなく皮膚にも生じます。特に顔の吸引にように脂肪大して厚くもないため、皮膚直下の脂肪にも吸引操作を行う時、裏から擦られた皮膚は丁度ヤケドを負った皮膚が縮むようなもので、少し縮み、肌にハリを出す効果が得られます。これはSuperficial Liposuction(表層脂肪吸引)と言われます。

● 頬脂肪吸引の「拘縮(組織の引き締まり)」の経過

頬脂肪吸引

 この人は元々脂肪の厚いお顔ではないのですが、頬の肉が下がってきて四角い輪郭になって来たとの事で、まだフェイスリフト手術適応のご年齢でないので結局、頬の脂肪吸引を行ないました。
 術後8日が反って顔が大きくなったように見えるのは、元々皮下脂肪が厚くないからです。脂肪が厚いと取った量と腫れが術後1週間位で同じになり術前と同じイメージになっているものです。
 さて1ヶ月検診の時に、「家の人に圧迫バンテージを見られたくない」等と言ってろくに圧迫をしなくなっていたので、全然効果が出ていませんでしたので、毎日必ず一定時間は圧迫を続けるように、そうすれば拘縮効果で必ず良くなります。と強くご指導しました。それでその後はハッキリ効果が出て来ました。これは取れた脂肪の量は多くなくても拘縮で効果が出せたというものです。
  なお術後の浮腫みは上半身の方が回復が早く、下半身は遅いものです。膝周りや下腿は術後半年でもまだ浮腫みが続いている事が多く、完成の細さは厳密には1年以上掛る印象を受けています。

● Tumescent Technique(チューメセント法=スーパーウエット法=ハイパーウエット法)とは

Tumescent Technique

脂肪吸引は開発から最初の10余年は、血液吸引などと揶揄される位に出血が多く、昭和60年代は自己血輸血(自分の血液を3週間位前に取って術中輸血する)が行われていました。 私もその頃から脂肪吸引を開始し、大変物騒な手術との感想を持っていました。また吸引管が外国製の太い物が多かったせいもあり、凹凸醜形もザラでした。
それがチューメセント法(吸引前に水溶液を多量に脂肪層に浸潤)の確立で様相が一変し、ほとんど出血せずに大量に吸引できるようになり、また凹凸も見なくなりました。国産の細い吸引管の開発によることもありますが、水溶液で脂肪の層をふやかし厚くすると、相対的に細い吸引管で吸引したのと同じになると伴に、なめらかに吸引出来るようになったことがあります。
このTumescent Techniqueは学問的に確立はしていますが、各クリニックでどこまで十分にしてやれているかというと足並みにバラツキが非常に多いのです。仕上がりの差として大きな隔たりがあるので、治療を望む方は、これをキチンと行う施設で受けるべきです。一般的にこのTumescent Tecuniqueを手を抜かなければ手術時間はかなり長めとなります。水溶液を満遍なく入れるのに長く掛かりますし、脂肪がふやけてカサが増すので吸引にも時間が掛かるのです。

● 吸引した脂肪の再利用

脂肪注入による豊胸|術前手術前 脂肪注入による豊胸|術後手術後


吸引された脂肪や切除されや脂肪を捨てずに再利用しようと言う試みは、国内でもヤスミクリニック先代院長の安見正志先生や、目頭切開の内田法(W法)で有名な内田準一先生により、実は古くから行なわれていました。 しかし、学問的には何故か脂肪は「Dermal Fat:真皮を付けた脂肪でないと生着しない。」という医学の見解が罷り通っており、それを覆すような意見は、長らく日の目を見ませんでした。 しかし、脂肪吸引が盛んになるに従って再利用の考えが自然に起こってきて、昭和61年頃の美容外科学会にて演題としても取り上げられるようになったと私は記憶しています。  そして顔面注入に関してはすぐに一定の評価を得て、正規の美容外科医療として認知されましたが、バストの注入に関しては、当時は感触の良いシリコンバッグが主流だったため、わざわざ脂肪を入れなくてもと言う発想もあり、すぐには本格的取り組みがなされませんでした。 ところが平成2〜3年頃から、アメリカのシリコンバッグによる乳癌裁判の余波を受けて、日本でも豊胸術は生理食塩水バッグが主流となりましたが、明らかに感触が悪すぎ、治療を受ける女性の満足が得られませんでした。そこで脂肪注入が顧みられるようになった感があります。脂肪注入による豊胸は各美容外科の医師の共通の見解として、注入脂肪が生きていくためには、注入後に周りの組織から血管が伸びて入る必要があり、それで酸素と栄養の確保が出来、生きながらえていける。このためには注入時できるだけ脂肪を散らばせて入れる必要があるという訳ですが、私は平成7年からメスを使わず、注射の針だけで多方向から注入する手技を研究しており、これは数年後美容外科学会にて発表しました。この手技により、 シコリを触知せず、ワンサイズアップを望めるようになりました。
  なお昨今は脂肪注入は10年以上前と打って変わって広く認められる手術となり、当然日本でも同様です。私が平成12年に学会発表した際は、「アメリカでも禁止に近い扱いを受けている、このような手術(脂肪注入での豊胸)は止めた方が良いと思います。」などと複数の医師から十字砲火に近い非難を浴びていました。今は注入脂肪の壊死部分周囲に遺伝子情報を受けて脂肪が再生する等の画期的な研究も発表され、新たな段階に入っています。